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記憶力の低下が気になるアラフォー男の備忘録

【読書記 #2】「太平洋戦争陸戦概史」~参謀総長というロボット~

目次

なぜ読んだ?

前回記事が海軍の要職に就いた方の独白書であったのに対し、、

mytracking.hatenablog.com

その陸軍版が今回の「太平洋戦争陸戦概史」のようなので、これまた近所の図書館で借りる。 これも、終戦直後の1951年(昭和26年)に発行された古典的資料。

著者は、陸軍大学を卒業し、最終的には陸軍大臣秘書官などを歴任した陸軍軍人。 ただ、これ以上、私的には詳しくは知らないので詳細は割愛。

なお、図書館の蔵書から引っ張り出してもらった。昭和36年発行(第12刷)のため、かなりボロボロ。 歴史を感じさせる。

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所感

内容については、書名の通り、太平洋戦争に関する陸軍の作戦計画や経過などが陸軍内部の視点から、描かれる。

内容ははっきり言って、今回も難解。 とりわけ、作戦の詳細は、背景をイメージできるほど知識のバックボーンがないので、苦しいところだが、 今回も陸軍の組織内部の意思決定プロセスやリーダシップなど、組織論を歴史から学ぶという点では大いに参考になる。 太平洋戦争における当事者だった著者の文章は、本の古さなども相まって、生々しく訴えてくるものがある。

文章は、当時の経過が淡々と語られるが、驚くのがその作戦内容の記録の精緻さ。

戦争終結後、5~6年程度たち、作戦などに関する資料がおよそ燃やされたことなどを鑑みると、 著者の記憶を頼りに、書かれたものと思われるが、そこはやはり当時のスーパーエリート。 頭の出来が違うのね、と改めて感心。

一押し箇所

アメリカの過小評価

開戦前から、ドイツへの過大評価、アメリカへの過小評価する傾向があったことが描かれている。 アメリカの精神力を軽視し、同国の戦意向上はされないとの認識が顕著であったという。

これは、陸軍幼年学校での外国語教育に問題があったものと分析されている。 そこで、もっぱら教育された外国語は、独、仏、露語。優秀な人はもっぱら それらの言語を習得している割合が高いため、それらの言語圏に派遣される結果、 米英などの英語圏への派遣が少なくなるため、英語圏の国際情勢に疎くなり、過小評価につながるとの見立ては なかなかに納得する。

今のこの時代になれば、「まずは英語、まずはアメリカ」なんて考えられるが、当時の世相はそんな単純なもので なかったのだろう。

参謀総長を「ロボット」呼ばわり

大本営(参謀本部)は統帥権独立の主張を背景として、強い発言権をもっていた。
その大本営では、杉山参謀総長はロボット的存在に近く、結局実質的な指導力は、第一部(作戦)が握っていた。

いろんな書籍などで、「便所の扉(押せばどちらにでも開く)」、「グズ元」など省内を全く統制できなかった無能論や、 「実は若いころは切れものだった」などの有能論まで様々だが、当時の内部の当事者から「ロボット」呼ばわりされていることには驚かされる。

杉山元が、年次的に参謀総長となる時代に開戦を迎えたことが最大の不幸」とまで書かれたなにかの本を読んだ記憶があるが、 私的に疑問なのが、なぜ参謀総長というトップの要職に就けたかということ。

一説には、226事件で上に立つ人がごっそりいなくなったから、というのがあるそうだが、それにしてもである。

素人的に考えると、優秀じゃないと出世はしないので、「もともとは優秀だったが、その立場に立った時はすでに年をとりすぎてて、軍人としての全盛期はとうに過ぎていた」ということを考えるが、年齢的なことを言えば、家康が関ケ原の世紀の一線を迎えたのが、60歳ごろ。年齢だけのせいではなさそう。

違いといえば、家康が若い時から、武田信玄豊臣秀吉などとの一流どころと合戦してきたのに対し、長らく、一流国と戦わない中で過ごしてきたキャリアの違い。。要するに厳しい局面に立たされてきた「場数」ということか。

本書の類書などを読んでも、総じて、当時の軍組織のなかで、とりわけ名前が出てくるような人は、大佐などのいわゆる「佐官」。 「将官」を差し置いて、「佐官」レベルの軍人が、組織を事実上切り盛りしていたことが伺い知れる。

現代でも課長レベルがしっかりしないと、課長補佐・係長レベルが事実上実務を切り盛りしているので、これと似たようなものか。 (参謀総長と課長では格が全然違うけど、そこはスルーで)

上に立つ人の統率が機能しないと、その下に権限が下降する結果、下剋上が起こり、上の人は、下の人のただのロボットになるというのは、 う~ん、現代でも普天的によく見る光景。これをもって、「最近の若い者はよく勉強する」なんて、当事者である課長が言ったりするが、 杉山参謀総長も似たようなことを言っていたようなので、人間というものは・・・

そういう意味では、軍事組織の歴史を学ぶことは、組織の普遍的な問題に触れることができるので、面白い。

こんな人におすすめ

上述の通り、組織の普遍的な問題などを学びたい人にはおすすめです。

太平洋戦争陸戦概史 (岩波新書)

太平洋戦争陸戦概史 (岩波新書)

  • 作者:林 三郎
  • 発売日: 1951/03/05
  • メディア: 新書