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記憶力の低下が気になるアラフォー男の備忘録

【読書記 #1】「太平洋海戦史」~彼等は思索せず、読書せず~

目次

なぜ読んだ?

戦時中、海軍の要職に就き、当時の海軍では合理的で良心的な考えを持った海軍軍人。 私的には詳しくは知らないので詳細は割愛。

ただ、なんといっても終戦直後の1949年、まだ戦争の生々しさや、 アメリカの占領下のまっただ中も時代に、海軍内の視点で太平洋戦争を 分析、回顧するという一次資料感満載なため、近所の図書館で借りる。

なお、蔵書から引っ張り出してもらった。1985年発行(第30刷)のため、結構ボロボロ。

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所感

内容ははっきり言って、難解。半分も分からなかった(恥。。

内容については、太平洋戦争の至った背景が語られ、 太平洋戦争で行われた各海戦(真珠湾攻撃ミッドウェー海戦レイテ沖海戦など)の経緯や 作成目的、当初の計画が語られる。

ぶっちゃけ、このあたりについては、詳しい人は山ほどいるので、語りはしないが、 個人的に、面白いのは、海戦に至る過程で行われた海軍内の意思決定や政治的な話についてのところ。

すでに、70年以上も前の話ではあるが、海軍という「The 組織」内で行われた政治模様は 現代の会社組織で、日常おこなれている模様とさして変わりない。

一般的に、英雄視されている山本五十六についても、若干冷めた目(客観的かつ冷静な目)で 語られているところが、逆に生々しい。

著者は戦後、多くの著作を書いたようだが、海軍大学を出た秀才が書いた文章はやはり、官僚的な文章で分析にも富んでいる印象。

海軍大学出というと、当時のスーパーエリートの印象を持つが、当時の海軍軍人が各一次資料的な 内容のため、難解だが、臨場感は十分に伝わる。

組織上は、中間管理職に位置する方のようだったので、中央(大本営)が策定する計画などを実効性のない「作文」と 切って捨てたり、当時の上層部を批判的な目で見る視点は、現代のサラリーマンでも十分に共感できるところ。

内容を通じて、「これだけ、合理的で冷静なのになぜ?」という気持ちがわかなくてもないが、 当時のスーパー組織たる海軍内では、一人の力ではどうしようもないのか、という悲哀も感じる。

一押し箇所

ぶっちゃっけ、本編でなく、序章が一押し(というか、序章だけで個人的に満腹) 長いけど、以下に引用。

「彼等は思索せず、読書せず、上級者となるに従って反芻する人もなく、批判をうける機会もなく、
式場の御神体となり、権威の偶像となって温室の裡に保護された。
永き平和時代には一言一句はなんらの抵抗を受けず実現しても、一旦戦場となれば
敵軍の意思は最後の段階迄実力を以て抗争することになるのである。」

「彼等」とは、いわゆる戦争指導部。長らく平和な時代が続く過程で、指導部に立ったものが、 戦時という困難局面で、十分な指導をとれなかったことを批判的に書いている。

新しい事態の認識、処置の変化に対する適応性の喪失は、個人的もしくは職業的体験以外には
如何なる『アンチテーゼ』をも克服しようとしなかった。
所謂実際家ほどその症状は絶望的であった。

要するに、意見も批判されず、予定調和やその場の空気でものごとが決まっていくということ(だと思う)。

陸海軍とともに、専門的知識と技術とを最高度に必要としたものは決して大臣、
総長または長官ではなく、むしろ艦長職隊長以下の下級者であった。

しかるに我が国の制度は少なくとも三十年以上を経過してはじめて権威の偶像となる資格が
得られたものであったから、指揮官は社会的知能の不具者であり、同時に著しい現象であったが、
指揮官の志士が艦隊の行動に影響を及ぼすことの多かった海軍は、結果的にはより悲劇的で
あったともいえるであろう。

要するに、30年以上たって、人の上に立てたとしても、その間に専門性を放棄したら、無能になり下がりまっせ! 自分はいいかもしれないが、その無能さは自身が思う以上に、周りに影響を与えるから、いろいろな人を不幸にするぜ!!ってこと(だと思う)。

こんな人におすすめ

「上司が無能だ・・・」と考えている人。別に解決策が書いてあるわけじゃないが、 70年以上も前の戦時中のエリートであっても、その問題には直面していたんだと思うと、自分の慰めにはなる。

太平洋海戦史 (岩波新書)

太平洋海戦史 (岩波新書)